▶『ニムオロ原野の片隅から(福音館書店、1979年)』。高田勝さんが根室で出会った鳥や生きものとの出会いを記録した「ぼくの原野日記」と、牧場での生活を記した「鉄さんの大地で」が収録されています。
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根室でしかできないDEEPなこと
自然を愛する人々の
拠点となる宿〈風露荘〉
#風露荘 #野鳥 #根室の魅力
根室の片隅にある風露荘は、野鳥好きのオーナーが営む小さな宿です。宿に並ぶ図鑑や写真集は、現オーナーの高田尚子さんが大切に集めてきたもの。尚子さんと野鳥について話す時間や、自ら摘んだ果実のジャムが味わえる朝食がここに泊まる楽しみのひとつ。この記事では、今は亡き夫の勝さんと共に根室へ移り住んだ頃から今までについて、勝さんが綴った本『ニムオロ原野の片隅から』を元に辿ります。
※記事の内容は2023年時点の情報になります
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鳥と花に囲まれた暮らしを求めて
根室の片隅にある風露荘は、野鳥好きが集う宿。リビングの壁には、図鑑や写真集など野鳥にまつわる本が所せましと並んでいます。宿があるのは、「野鳥の楽園」として知られる風蓮湖や春国岱のほど近く。この日も野鳥好きな常連客が宿泊しており、尚子さんと最近の野鳥情報などを話していました。
東京生まれの尚子さんと今は亡き夫の勝さんが、東の果てのこの場所に辿り着いたのは、「鳥が多く、花がたくさん咲くところ」を探し求めてのこと。
「これまでのことはほとんど、この本の中に書いてあります」。そう言って、尚子さんが手渡してくれたのは一冊の本。『ニムオロ原野の片隅から』。自然愛好家であり文筆家でもあった今は亡き夫の勝さんが、根室への移住やその後の暮らし、根室で出会った自然について綴った本です。鳥や花のことについては目を輝かせて話してくれる尚子さんですが、自ら多くを語るタイプではないよう。ここからは、勝さんが書いた本の言葉を一部借りながら2人と風露荘の記録を紹介したいと思います(文中の「」の一部は、『ニムオロ原野の片隅から』より抜粋)。
「それも東部の原野を中心に歩き続けてきたぼくは、いつしか一つの夢を描くようになっていた。それは、いつの日か自分の手で"バード・サンクチュアリ"を作ってみたいということだった」。
若い頃から自然好きだった勝さん。学生時代には毎年のように道東へ足を運び、野鳥観察を楽しんでいました。そんな中で抱いた夢が、"バード・サンクチュアリ(鳥の聖域)"をつくること。もっといえば、鳥だけでなく、ほかの動物や植物の生息場所が保護されつつ、人々が観察を楽しむことができる場所をつくりたいというのが勝さんの夢だったのです。
勝さんと尚子さんはかつて、東京で林業関係の専門誌を発行し、映画やスライドを制作する会社で働いていました。勝さんは全国各地の山や森を取材して回る仕事を担当していましたが、道東以上に鳥と花に恵まれた場所には出会えなかったそう。こうして2人は、将来の道東行きを前提に結婚を決めます。
旅の途中で出会った牧場へ
「将来の道東行き」は、尚子さんが当初想像していたよりずっと早いタイミングで訪れます。結婚した翌年、勝さんと尚子さん、尚子さんの妹たちは4人で根室を旅行することに。もちろん、勝さんの頭の中には、土地探しという重要な目的も。その旅の途中で、勝さんと尚子さんは出会ってしまったのです。針葉樹と広葉樹が混ざった森を抜けた先の、小高い丘の縁から見たすばらしい風景。林があり、草原があり、川が流れる、とある牧場の敷地。「鳥がたくさんいて、花もきれいな場所でした」。勝さんの心が大きく動いたことは、言うまでもありません。
▶リビングには野鳥にまつわる資料が沢山ある。
▶尚子さん手作りニット作成などが並ぶ(作品の一部は購入可能)。
勝さんが牧場主に何度も「ここで働かせてほしい」と手紙を書き、受け入れてもらえたのは1972年(昭和47年)のこと。念願叶って鳥と花に囲まれた牧場で働くことができた勝さんでしたが、待っていたのは想像以上のハードさ。「仕事の忙しさで鳥や花を見ているヒマがまったくなかった」と尚子さんは当時の勝さんの様子を振り返ります。勝さんが牧場で働き始めて1年が経った頃、勝さんは牧場を離れ、尚子さんと共に根室市西浜での生活を始めたのでした。
西浜の家には、野鳥好きの仲間たちがしょっちゅう訪れたと尚子さん。「長期休みには毎日誰かしらが泊まっているような状態でした。年間200人くらいかな。『泊めてもらうから』と抱えきれないくらいのお土産を持ってきてくれる人が多くて。宿をやるとか、何か形にしたほうがいいなと思うようになりました」。
自然を愛する人々にとっての拠点づくり
「昭和五十年秋、多くの知人、友人の援助を受けて、風連湖にほど近い原野に土地を借り、山小屋ふうの家を建てた。東京から移住して三年半ぶりに生まれた、ぼくらの真の拠点である。いや、ぼくらの拠点というだけではない。願わくば、自然を愛する人々にとっての、心の拠点ともなってもらいたいのだ」。
▶朝食はパンとサラダ。パンに付けるジャムは尚子さんが自ら摘んだ果実で手作りしたもの。15種類ほどある。
民宿を始めてからのことを尚子さんはこう話します。「知り合いがたくさん来てくれるうちに、自然と野鳥好きが集まる場所になりました。民宿を始めた頃、大学生を中心に野鳥観察ブームが起きて毎日本当に忙しかった。泊まりに来た学生さんに手伝ってもらったりして。夕食後はみんなでお酒を飲みながら、今日見た鳥の話をしたり、目当ての鳥が見つかりそうな場所を教えてあげたり、賑やかで楽しかったですね。2013年(平成25年)に主人が亡くなった後もずっとこうして続けていられるのは、人とのつながりがあったからだと思います。ありがたいことです」。
▶冬、窓辺に吊り下げられた牛脂を食べに野鳥たちが集まっていた。
話を聞いているうち、窓の外は野鳥たちの声で賑やかに。その姿を目で追っていたら、「まずは5種類、名前を覚えてみると良いですよ。そうしたら、少しずつ違いが見えてきて、6種類、7種類と名前のわかる鳥が増えていくから」と尚子さんが教えてくれます。
日本で生息する野鳥のうち約半分が観察できるといわれている根室。その片隅にある風露荘では、これまで約138種の野鳥が観察できているそう。バードウォッチングを目的とした旅の途中、ここに泊まって尚子さんと野鳥談義に花を咲かせるのも楽しいでしょう。バードウォッチング初心者でも、宿にズラリと並ぶ図鑑や尚子さんの話を聞いているうちに、きっと興味が湧いてくるはずです。
Information
インフォメーション
フィールド・イン・風露荘
根室市東梅249-1
TEL.0153-25-3905
宿泊料金/1泊朝食付7,500円
※素泊まり、夕朝食付きでの宿泊も可能です。
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