▶古川広道さん。1975年三重県生まれ。パリでファッションを学び、帰国後には自身のジュエリーブランド「AVM(アーム)」をスタート。東京の中目黒を拠点に創作活動を行ってきました。根室へ移住したのは2011年(平成23年)のこと。以降、これからの暮らしのあり方を考える一般社団法人VOSTOKの立ち上げなど、根室の文化発展などに向けて精力的に活動を進めています。
Things to Do
根室でしかできないDEEPなこと
「根室で暮らし、作ること。
ジュエリーデザイナー・
古川広道さんに聞く根室の魅力」
#ジュエリー #根室の魅力
「その土地の魅力」はいろいろな視点から見つけることができます。外から見ることで初めて気づく魅力もあれば、暮らす中で感じる魅力もあることでしょう。話を聞いたのは、ジュエリーデザイナーの古川広道さん。2011年(平成23年)に東京から根室へ移住してきました。移住の経緯や根室でのものづくり、暮らしの話など、取材を進める中で見えてきたのは、あるひとつのキーワード。それは、多くの人が考える「豊かな自然」よりももう一歩踏み込んだ根室の魅力でした。
※記事の内容は2023年時点の情報になります
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より良い暮らしを求めて。辿り着いた根室。
話を聞いたのは、本土最東端にほど近い珸瑤瑁地区にある予約制ショップBURANN(ブラン)。植物やジュエリー、インテリアが見事に調和された空間の中、古川さんは穏やかな笑みを浮かべて話し始めました。
▶2022年(令和4年)4月にオープンしたBURANNは湿原の側にある建物を改築し営まれています。
▶白を基調とした店内は穏やかながら、どこか凛とした空気で満ちています。
移住のきっかけとなったのは、2011年(平成23年)3月に起きた東日本大震災。連日のようにテレビから流れてくる津波の映像。そこから古川さんが読み取ったのは、「自然 vs 人」の構図でした。「震災以降、人と自然の距離がこれまでより離れてしまったような気がして。今後の暮らしを考えた時に、もう少し自然と人が近づいたところで何かを生み出したり、暮らしていけたら良いなと考えるようになったんです」。
頭の中で漠然とした思いが膨らんでいたそんな時、趣味の釣りをしに仲間に連れられて訪れたのが、北海道最東端の町、根室でした。そこで強い印象を与えたのが、漁師が船の上で魚を獲る光景。そこには「自然 vs 人」の構造はなく、自然の輪の中に人が入っている、そんな風景が広がっていたと古川さんは言います。「ここだったら自然と人との距離感が近い暮らしができて、自然の中から生まれてくるものづくりができるんじゃないか。1回トライしてみようと思って、移住を決めました」。
根室で変わった古川さんのものづくり
そんな根室の「自然と人の距離」は古川さんのものづくりにも影響を与えているようです。
▶古川さんが東京時代から作る作品。ゴールドやシルバーなどの素材で指輪の裏側には美しい模様が彫られています。細部まで繊細に作りこまれていて、思わず見とれてしまいました。
「東京にいた頃は、自然に対しての憧れや渇望、畏敬の念が自分の中にあって、作品の中にも投影されていました。それが根室に来てからは、自然の中に自分も組み込まれているような感覚があって。よりコンセプチュアル(=理論で裏付けられたもの)ではなくなったんです」。
見せてくれたのは、シルバーのバングル。「これは、海岸を散歩していた時に見つけたクジラのあばら骨がイメージソースです。1年くらい触り続けて、手触りや曲線を手に覚えさせて無意識に叩いて作ってみたら、骨の質感をそのまま表現することができました」。
「作るぞ」と入り込み過ぎず、考えすぎずに、自分が暮らす日々の中から抽出された「何か」が投影された作品。言ってしまえば、頭で考えるよりも感覚的に生み出されたもの。古川さんのものづくりは、東京にいた頃よりも一歩暮らしに近づいた所から作られるようになったのでした。
▶根室市内で手に入れたシカ角から作ったリング。「根室にいないと作れなかったものですね」と古川さん。
根室で暮らすことで磨かれてきた感性
趣味の釣りのほか、山菜取りやベリー摘みなど、自然から糧を得て暮らしを営む古川さん。「たまに生態系の中に自分も組み込まれている感覚があります」と楽しげな表情を浮かべます。
「クマは何度も見たことがあるし、クジラは近くの海峡を通る。窓から外を見ればワシやシカがすぐそこにいる。大きな野生動物が周りにたくさんいるので、人が一番上位ではないと感じられるのがすごく良い。自分も自然の一部に過ぎないと感じる瞬間があります。朝起きた時の湿度や気温などで『今日は魚が釣れそうだ』『虫がたくさん出そうだ』という予感がすることも。根室に来て、そういう動物的な感覚も研ぎ澄まされたような気がします」。
▶取材中、BURANNの窓からオジロワシの姿が見えました。
曰く、その感覚は時間を経るごとに蓄積されているのだそう。暮らしと仕事が緩やかに繋がっていると話す古川さんにとって、その蓄積が創作にも深く結びついているのは言うまでありません。
「最近作ったのは、エボナイトという天然ゴムと硫黄を混ぜた素材で作ったジュエリー。根室とは関係のない作品に見えますが、磨いていくと根室近郊で釣りをしていた時に感じた水面のとろみ、マジックアワーの時に見られたきらめきなどが、プラスチックやシカの角にはない感じで出てくるんです。僕の中では、これが一番根室らしい作品ですね」。
根室へ来てから光の見え方、捉え方が変わったと話す古川さん。このエボナイトの作品も根室で磨かれてきた感性によって生み出されたものなのです。
古川さんおすすめの根室の雄大な自然を感じられるスポット
これまでに何人もの知人たちを根室へ呼び、案内してきた古川さん。何と、そのうちの数人は根室へ移住を果たしてしまったのだそう。そんなガイド上手な古川さんが「根室の雄大な自然を感じたいのならぜひ」と勧めてくれたのは、春国岱と落石岬の2つのスポットでした。
▶落石岬からの眺め。荒々しい太平洋が眼下に広がっています。
「春国岱は、砂が堆積してできた場所です。海から森になるのに3000年ほどかかると言われていますが、春国岱では10分ほど木道を歩くことでその過程を体感できます。落石岬は、とにかく広大な景色。どこまでも続く草原や海を見渡すことで、自然の大きさや畏敬の念を感じられます。もちろん、原始の森や広大な草原はアラスカやモンゴルなどほかの場所にもあります。でも、ここではそれらがコンパクトに見られる。かつ市街地から20,30分で行ける所にあるというのが非常に稀有な場所だと思います」。
まとめ:自然と人の距離が近い根室
今回、古川さんの話を聞く中で度々話題にあがったのは、「自然との距離の近さ」。それこそが今回のキーワードなのではないでしょうか。普段は中々出会うことのない野生動物。圧倒的なスケールの大地。四季折々に見せる植物の豊かな表情。自然から得られるさまざまを暮らしのすぐ側で味わうことができ、時に人も自然の一部だと思わされるような場所。それが根室という土地の魅力のひとつなのだと感じました。
取材の終わり、BURANNの裏手に広がる元牧草地を案内してもらいました。どこまでも続く草原。遥か先には、風車やサイロが見えます。足元にはアヤメの花畑が広がり、所々でエゾクサイチゴが真っ赤な実を実らせていました。「ついこの前まではワタスゲの白い花が一面に咲いていて。見事なものでしたよ」と古川さん。冬になると辺り一帯が雪に包まれ、真っ白になるのだそう。草花で賑やかな風景から一変、銀世界へ。その光景はきっと美しいに違いありません。
流氷が訪れる頃、新しい風景と出会いにもう一度この場所を訪れてみたい。そんな思いを残しつつ、BURANNを後にしました。
Information
インフォメーション
BURANN
根室市珸瑤瑁1-139-1
Instagram:@burann_space
※店舗は予約制です。お越しになる際は事前にご相談ください。
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